DNEG社 Rodrigo Dorsch 氏へのインタビュー

6月のNUKE アーティストセミナー 2019にて来日頂きましたDouble Negative (DNEG) コンポジティング シークエンス スーパーバイザー Rodrigo Dorsch 氏にインタビューを行わせていただきました。こちらの記事では、その内容をご紹介致します。

 
 

▼ご自身について

  1. 最初に、ご自身の経歴について教えてください。
     
    広告の学位を持っていましたので、グラフィックデザインを始めました。その後、VFX分野で活躍している友人がいましたので、この分野に興味を持ち始めました。その友人の活躍を目の当たりにして、私もVFXについて学びたいとの思うようになり、学校に通い修士号を取得しました。最初はコマーシャルなどテレビシリーズの仕事をしてその後、映画の仕事に携わるようになりました。
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  3. コンポジターという職業に就いたきっかけを教えてください。
     
    コンポジットというのは、映画を最後に仕上げるところの一番重要な部分なのでとても責任を感じますが、それと同時に、大きな喜びを感じる部分でもあります。何故なら、私の仕事の良し悪しが、直接、映画の中で分かるからです。それが、この仕事をしていて最も楽しめるところです。
     
     

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  5. DNEG社におけるコンポジターとは、どのような役割でしょうか。
     
    DNEG社というのはコンポジットをとても重視している会社なので、コンポジターは多くの責任を抱えています。ただ、その責任をとても良いものだと思っています。なぜなら、コンポジターとしての力を発揮できるからです。
     
     
    また、DNEG社におけるコンポジティング シークエンススーパーバイザーとは、どのような役割でしょうか。
     
    コンポジットスーパーバイザーの役割は、プロジェクト毎にパイプラインやガイドラインを設定する役目です。そのプロジェクトの中でどのように作業をしていくのかを決めて、時にはテンプレートを作成して、アーティストのためにフレームワークを策定します。プロジェクトの期間中には、VFXスーパーバイザーやクライアントからの創作意欲を掻き立てる情報をアーティストに伝える役目を果たします。
    さらに、テクニカルレベルでクオリティを維持する責任も持っています。すべてのショットが技術的に上手くいっているかという監督の役割もします。
     
     
    日本では、コンポジターというカテゴリがはっきりと分かれていない場合もあるので、そのカテゴリでの役割分担についてお聞かせ頂けますか。
     
    今まで私が働いたロンドンとアメリカでは部署による組織というものが決まっていて、それが3Dの部署と2Dの部署で分かれています。まず、最初にコンポジットチームでは、コンポジターがいて、リードコンポジターがいて、そして、コンポジットスーパーバイザーがいます。コンポジットスーパーバイザーはプロジェクト全体を管理しています。リードコンポジターは、そのプロジェクトの中の小さい部分だけを管理していて、チーム内のルックデブなどを管理しています。このような組織があることによって、コミュニケーションが取りやすくなり、そして、VFXスーパーバイザーとチーム間での話し合いがしやすくなります。
     
     

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  7. コンポジターとして影響を受けた人や師匠と仰ぐ人、尊敬している人がいれば教えてください。
     
    今までにたくさんの偉大な人たちにお会いして、素晴らしい人々に刺激を受けてきました。その中でも一番刺激を受けたのは、仕事に対して情熱を与えてくれるような人です。なぜなら、多くの場合、仕事はとても大変なのですが、その中で、プロジェクトに対して良いエネルギーを与え続けてくれるような人に出会えると、その人たちのことをとても尊敬します。
     
     
  8. 日本のアニメーションや日本の映画等で好きな作品や影響を受けた作品があれば教えてください。
     
    最近の日本作品では、多くの素晴らしいVFXが出てきていると思います。最初に良いと思ったのは『永遠の0』そして『シン・ゴジラ』です。最近になってもっと素晴らしい作品が増えたと思います。最新のもので私が素晴らしいなと思ったのは『いぬやしき』です。
     
     
  9. コンポジター、コンポジティング シークエンススーパーバイザーに対して求められるものは、技術が進化すると共に変わっていますか。
     
    はい。そう思います。決して退屈せず、常に進化し続けるのが、この仕事のおもしろいところだと思います。どのように仕事を終わらせていくかを常に考えなければなりませんが、最近の思うところは、機械的に何度も同じことを繰り返す作業を減らして、アーティストがよりクリエイティブな仕事に集中できるようにすることです。そのために自動化に対応していくことを進めており、近い将来には、アーティストがクリエイティブな部分の仕事にもっと専念できるような日がくると良いと思っています。
     
     
    もし、変わっているとしたら、どのように変化していますか。
     
    変化というものは常にプロジェクトやクライアントによって起こされるものです。
    クライアントはいつも新しいものを求めていて、私たちができないだろうとして引いている境界線から押しだそうとします。よって私たちはなるべく早く適応して、早く良い結果をみせなければなりません。そういうものが変化を起こすものだと思っています。
     
     

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  11. Rodrigo Dorsch 氏が考えるコンポジターにとって大切なことは何ですか。
     
    コンポジターにとって一番重要なことは、現実の世界を観るということです。そうすることによって現実の世界がどのように振る舞っているかというのをカメラのレンズを通して観ることができます。それがフォトリアルのコポジッティングを目指すコンポジターにとって、とても大切なことです。最近では、CGやバーチャルリアリティゲームがかなり流行っていて、現実に目を向けることを忘れがちです。CGをリファレンスとして使ってしまうということもあるかと思います。ですが、こういうものは現実からきていることを忘れずに、いつも現実を観ることを覚えておくことが大切だと思います。
     
     

▼DNEG社について

  1. DNEG社とは、簡単にいうとどのような会社でしょうか。
     
    DNEG社は、1998年に業界の少数のプロ集団によって設立されました。彼らは素晴らしい作品を快適な環境の中で作りたいと思っていた人たちでした。現在は、世界中に約5,000人の従業員がいて、オフィスは、カナダ、アメリカ、イギリス、インドにあります。DNEG社は、今世界でこの業界をリードしているVFXの会社です。
     
     
  2. DNEG社では、コンポジットで使用するパイプラインやアセットを、どのようにして大規模なプロジェクトに対応させているのか教えてください。
     
    まず、最初にプロジェクトに応じて何が必要かを見極めることです。パイプラインが既に構築されているのなら、それを使用し、もしプロジェクトに適していないのなら修正をします。私の2Dコンポジットスーパーバイザーとしての役割は、その立場から、そのパイプラインを検証し、必要に応じて修正をしていくことです。
     
     
    複数のプロジェクトで共通して使える固定したパイプラインもあるのでしょうか。
     
    はい。あります。しかし、先程述べたようにプロジェクト毎に違う方法で修正することもあります。パイプラインを変えたり、ツールを開発したり、その時のシナリオに併せて作っていきます。例えば、『インターステラー』という映画を私たちが制作した時に、ブラックホールを制作したのですが、この時は科学者から得た数式を新しい方法を使ってスクリーンに映し出すということをしました。この時に既存のパイプラインでは適応できなかったので、新しいものを作り出しました。
     
     
    また、インハウスツールとしてDNEG社で開発されているものはありますか。もしありましたら、その目的や内容についてお聞かせください。
     
    はい、インハウスツールはたくさんあります。主に制作を促進させるためのものであって、パイプラインの一部として成り立つように、プロジェクトのニーズに応じて常に更新し続けています。インハウスツールを開発するR&Dチームがいて、この人たちが作品に合うように更新を続けています。
     
     

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  4. 開発したツールはひとつのプロジェクトでの使用後、他のプロジェクトなどで再利用されますか。
     
    はい、使います。もし、それがプロジェクトに役立つとすれば使います。そのツールを持ってきて、パイプラインに適用するようにします。もし、良いツールがあるようでしたらそれを将来のためにとっておきますし、もし、あるプロジェクトに対して特定しすぎるようなツールだとしたら使用しません。私たちはいつもこの可能性を探っています。
     
     
  5. 他社とショットを共有する時、技術やアセットも共有しますでしょうか。
     
    はい。アセットをシェアすることはあります。3Dの場合は、モデルやテクスチャー、そしてライトリグなどをシェアします。コンポジットの場合は、シーケンスのコポジットを他の会社が担当することもあるので、その場合は、レイヤをプリレンダーして、他の会社がツールを使わずに組み立てられるようにします。
     
     
  6. 制作環境でショットの管理をどのように行っているのか設備やソフトウェアについて教えて下さい。
     
    まず、環境としてLinuxを使っていて、コンポジットにはNUKEを使っています。そして、CGやライティングにはClarisse、エフェクトは、Houdiniを使用しています。モデリングとアニメーションのためにMayaを使っていて、フィーチャーアニメーションにはKATANAを使っています。ショットの管理にはShotgunを使っていて、インターナルシステムとしてIvyと呼ばれるものも使っています。
     
     
  7. 今後、DNEG社が日本や他のアジア諸国で事務所開設をする可能性はありますか。
     
    日本にオフィスが開設されることを願っています。
     
     
  8. DNEG社が将来的に目指している方向性について教えて下さい。
     
    DNEG社の考えとしては、より良いクリエイティブな環境を提供していくために、常にクライアントやディレクターたちの近くで仕事をしています。アーティストと一緒にクライアントに素早く作品を提供できるような環境作りを心掛けています。
     
     

▼NUKEについて

  1. Foundry社の製品は、DNEG社にとってどのような存在でしょうか。
     
    NUKEは私たちにとってとても大事なものです。もし、NUKEがなかったとしたら、できないことがありすぎるでしょう。私たちの会社にはR&Dのチームがあって、インターナルツールを開発していて、彼らはFoundry社と直接やりとりしています。
     
     

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  3. どのようなマシンやOSを使用していますでしょうか。
     
    ハードウェアについてはあまりよくわかりません。常に環境が変化していて、皆にとって標準のものというものがありません。Linuxを使っています。
     
     
  4. サードパーティ製プラグインで使用されているものがあれば教えてください。
     
    いつくかあります。内部用に開発されたものも多数ありますが、デノイズのためにNeat Videoや、Optical Flaresなどを使うことがあります。
     
     
  5. DNEG社にとってNukeの最大の魅力は何でしょうか。
     
    NUKEはとても頑強なシステムだと思います。さらに自分たちのツールを書いて構築することもできるので、それが最大の特徴とも言えます。
     
     
  6. Nukeを扱う際に、チームで決めているルールがあればご参考までに教えてください。
     
    これは、私のスーパーバイザーとしての仕事でもあるのですが、特定のプロジェクトに対してガイドラインを設定していきます。DNEG社が会社として一番効果的な方法で進めていくというガイドラインもあるのですが、プロジェクトごとにそれを決めていきます。
     
     
  7. パイプライン上でのNukeの役割について教えてください。
     
    NUKEはとても重要ところに位置するもので、コンポジターにとっても、とても大切です。ほぼすべての部署でNUKEが使われていて、例えば、ライティングチームでもライティングのスラッグコンポをするために使っていますし、また、マットぺインターたちも3Dのセットアップを行うためにNUKEを使っています。
     
     

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  9. Nukeを使用していて、改善してほしい点があればお聞かせください。
     
    既に述べたように、DNEG社にはR&Dのチームが存在していて、スーパーバイザーやアーティストと直接やりとりをしたり、私たちからフィードバックを得たりして、時には独自のツールを作っています。彼らはFoundry社とも直接やりとりをしており、内部的に収集した情報やフィードバックを提供しているので、今のところ特にリクエストや改善点はありません。
     
     

▼総合

  1. 映画 『ファンタスティック・ビーストと黒い魔法使いの誕生』 や『ゴジラ キング・オブ・モンスターズ』等のシーケンスにおける複雑なFX クリーチャーや精細な背景のコンポジティング技術等について、苦労されたことなどがあれば教えてください。
     
    『ファンタスティック・ビースト』に対する一番の挑戦は、エフェクトがとても重いプロジェクトだったことに加えて、常に更新され続けるので、コンポジットを早く作業しなければならなかったことでした。常にすべてが更新され続ける中、良い作品をクライアントに対してお見せしなければなりませんでした。エフェクトやシミュレーションは常にたくさん更新されますが、それに対して素早く対応しなければなりませんでした。
     
    それに対して『ゴジラ』の場合は、少し違っていました。一番の挑戦は、CGとライブアクションを合成するところでした。すべてのプレートが撮影されていて、ほとんどのショットが夜の暗いシーンでした。その中ですべてを繊細に調整していくというテクニカルでアーティスティックな面での挑戦が大きかったです。
     
     
  2. NUKEアーティストとしてDNEG社に応募する場合、どのような点が採用のポイントとなるのでしょうか。
     
    まず、ソフトウェアを理解することが必要です。そして、フォトリアルに対する経験が必要になります。また、細かいところにまで目を向けるということも必要になります。
     
     
    また、どのようなスキルが求められますか。
     
    まず、技術が大切だと思います。それからフォトリアルな絵を作り出せるという力も必要になります。先程述べた通り、現実の世界をよく観察して、それがカメラからどう見えるのかということをよく理解する必要があります。
     
     
  3. 今後の業界のあるべき方向性や展望等についてご自身のお考えを教えてください。
     
    スタジオはなるべくお金をかけずに良い作品を作ることを常に求めています。このようなことを実現するためには、効率的で、賢い方法で対処しなければなりません。近年、DNEG社で一番力を入れているのが、コンポジティングにおける自動化です。これは、制作の工程の一部を自動化して、アーティストが芸術的な部分に注力して、コンポジターはコンポジット作業に専念できるよう、例えば、ファイルマネージメントや繰り返し作業を極力しなくてすむようにしています。
     
     
  4. コンポジターを目指す日本の若い人に勉強すべきことやアドバイス等を一言お願いします。
     
    何度も言うようで恐縮ですが、「現実を観る」ということが一番大切だと思います。それがフォトリアルなVFXコンポジティングをするための一番重要なことだと思います。ソフトウェアを学ぶことはもちろん大切で努力を要するものですが、より良い映像を創り出すためには、なによりも「良い目」をもたなければなりません。

 
 

 
 
ありがとうございました。